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2008.03.20 23:22

私だけの宝物―
たくさんあって決められないけれどその中でもあれは特に最近のお気に入り。

回廊を曲がると背の高い男性の姿が飛び込んできた。
もっと明るい色を着ればいいのにと何度か忠告したのにもかかわらず彼の男性が身に纏うのは漆黒の闇の色。
墨をたらしたかのようなつややかな黒髪と一体となって実は内心好んでいたりもするのだがそれはまた内緒の話だ。
そんなユスティニアの夫であるアレクシードの姿を見とめてユスティニアは近くへ寄ろうと少しだけ歩調を速めた。
本日の予定であった勉強の時間もすでに終わりあとはお茶の時間まで時間を持て余していたところだったからちょうどよい。
どうせなら一緒にお茶も誘ってみようとユスティニアは意気込む。
あんなところにいるのだからこのあとの予定は開いているのだろうと勝手に思い込む。
急に足を止めたのは アレクシードが軽やかな声を発していたからだ。
次第に近づき肉声が届く範囲にまで近づき、ユスティニアの耳に入ってきたのは夫アレクシードのほがらかな笑い声だった。
彼が談笑しているところが珍しかった。
いつもは渋面をつくっている印象しかなかったし、何よりもその笑顔はいつもは自分に向けられているものだったから。
けれども今は別の誰かに向けられている。
一体誰だろう?ユスティニアは彼をあんな風に笑わしている相手が知りたくなって背伸びをする。
義姉のアゼリアだろうか、それともフラッド、まさか国王なんてことはあるまい。
心の中で日頃アレクシードが親しくしている者たちを浮かべていくものの何か違うとそのすぐ側で打ち消していく。
体を大きく揺らしてようやく目に飛び込んできたのはいかにも貴族然とした数人の令嬢たち。
ユスティニアも何度か目にしたことのある者だちだ。
アゼリアが招いたのだろうか、帝国から帰還してまた王城で暮らし始めたユスティニアの話し相手にとアゼリアは以前にもましてこうした令嬢たちを自身のお茶会に迎えるようになった。
アダルシャンに嫁ぎいくらかの年月を過ごして少しずつ少女へと成長する義妹に心を通わせる友人が出来ればとアゼリアも心を砕いていた。
ユスティニアより少し年上の少女たちは流行りのドレスや青年貴族たちの話や異国の宝飾品などの話題でいつも持ちきりで、彼女にしてみれば故郷の姉たちを思い出させるような少しだけ郷愁の念を抱かせたりもする。けれどもアゼリアの好意だし年の近い少女たちと話すことは案外退屈ではないと近頃ユスティニアは感じていた。
けれども今回ばかりは何故だか胸の痛みが先行した。
私だけの―
その思いが心を占める。
そろりと窺っていたつもりだったがそれはユスティニアだけが感じていたことか、件の少女たちは彼女の姿を目にとめると挨拶をし去っていった。
またのちほど、という言葉とともに回廊を去っていく。
「ああ、ユティ勉強の時間は終わったのか?」
去っていく令嬢たちを見送ってアレクシードはユスティニアを振り返り声を掛けた。
いつもと同じその表情も声も見知ったそれと同じ、親しみを感じる優しい声音。
「あんなもの私にかかれば造作もない」
なにか、自分でもわからないもやもやが頭一杯に広がってしまいユスティニアはついぞんざいな受け答えをしてしまう。
すぐにぷいと顔を背けてしまったユスティニアを訝しがってアレクシードはぽんと彼女の頭の上に手を乗せる。
「な、何をするっ!」
子ども扱いするでないとユスティニアは乗せられた手を勢い良く振り払おうとする。
「え、いや、なんか元気なさそうだったからつい」
「ついではない。私は子供ではないのだからそのようなことをされても嬉しくない」
困ったとばかりにうーんと唸りだすアレクシードを見上げてユスティニアは少し悲しくなった。
やはり彼にとって自分はまだまだ子供なのかと。
最近では痛切に感じてしまう、彼との距離、心の差を。

ああなんと厄介なのだろう。
この気持ちなんというものか。

「ご機嫌を直してください。我が姫君」

そっと見上げれば優しい瞳とぶつかった。
ユスティニアの大好きな宝物。口の端を上げた柔和な面持ちも自分だけを見つめる慈しみのこもった瞳も彼女のお気に入り。
未だ未開花のこの気持ち。
心だけが知っている。
今はまだ分からなくてもいい、いずれきっと知るときがくるまでは。


あとがき。
すみません、収拾がつかなくなりました。
時期的には最終巻のあと数ヶ月後くらいで。
ユティ無自覚のやきもち話です。
そのうち16歳くらいのお話も書きたいです。
こちらにいらしているかたでアダルシャンシリーズご存知の方はいらっしゃいますかね??
アクセス解析なんかみてるとたまに検索かけてくれるかたなんかもいらっしゃったりで2つくらいしか二次書いてないのに嬉しいやら少なくってごめんさないやらです。
アダルシャンも大好きなのでもうちょい書いていきたいな。
できればユティ16,7歳でちょい寸止め話を


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