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2008.04.18 22:37

「ちょっとそこのお兄さん!!ねぇちょっと、お兄さんってばっ!!」
なにやら威勢のいい呼び声にポールはハッとして後ろを振り返った。
いや、もしかしたら最初はもっと可愛らしい掛け声だったのかもしれない。
けれども自分の声に一向に振り向きもしないその様子に腹が立ったのか売り子としての誇りを汚されたと思ったのか、とにかくその少女は大きな声を出して青年を振り向かせた。
良く晴れた日。
そして日中はそれだけで気分も上向きになるというくらい気候も穏やかになってきた初春、ポールは冬の間辻馬車を利用していた道のりも今日ばかりは陽気に負けて気分洋々と目的地までのつかの間の散歩に興じていた。
辺りに栄えている市場を冷やかしながら歩くのにも今日は絶好の日和だ。
市場に取り揃えられている品々も春に向けての支度品であったり、帽子もショールも薄手のものが掛けられていた。
花々も早々に春先に御目見えする品種が取り揃えられておりそれらを眺めるだけでも十分に暖かい季節を感じる事ができた。
しかしながら悲しいかな女性に呼びかけられることに慣れていないポールにとって市場の売り子の少女の対象がまさか自分に向けられている呼び声だとは思わなかったのだ。
「もう!お兄さんったらぼぅっとしすぎ!春だからってそれはないわね」
やっとの思いで振り向かせた客を相手に売り子は言いたい放題だ。
けれどもそこは客商売、内容とは裏腹にその表情はほがらかで口調もあっさりしている。
「本当、ごめんね。あんまり慣れてないんだ」
相手の気安い雰囲気にポールもつい聞かれてもないことを滑らせてしまう。
「慣れてないって、何によ?」
興味を示したのか少女も聞き返してくる。
金色の髪が日の光を反射してそれこそが日の光で結ったかのように存在感を示している。
あぁきっと春の妖精たちもこんな風にその存在を知らしめているのだろうなとポールは何気なしに考えてしまう。
「ほらっ!質問。ちゃんと答えてよ」
少しばかり気が強いのか少女は腰に手を当ててほら、とポールをまくしたてる。
「ああごめんね。あんまり普段から女性に呼び止められることがなくってね。だから今さっきも僕じゃないって思ってしまって」
ははーん、と少女は得心がいったという表情をする。
気がよさそうな普通の青年だ。これは相当の奥手に違いない。
「もう!そんなんじゃ駄目よ。もっと男のほうからガツンと行かなきゃ!」
「うん。僕の友人にもよく言われるよ、もっと積極的になれって」
そうポールに毎度恋愛沙汰について指南しようとする伯爵は確かにそっち方面には百戦錬磨だが肝心の本命にはその手練手管が思うように発揮できずに苦戦を強いられている。
「そうよ。やっぱりほら男からそういうのいわれたらうれしいじゃん」
「ってことはもしかして君にも想い人がいるの?」
「わ、私のことは関係ないの!もう、ほら。一丁景気付けに花でも買ってだれかにプレゼントしてみなよ」
図星を指されたのかすこしばかり顔を赤くした少女は照れくささを隠すためかはたまた本来の目的を思い出したのか眼前にある商品からいくつか選び出す。
「え、え?僕はそんな・・・・花なんて」
今までそんな殊勝なことしたことのないポールはたちどころに慌てふためくが本来の目的を思い出した売り子にかなうはずもなくあっという間に可愛いらしいブーケを押し付けられていた。
「春は恋の季節ってね!お兄さんに幸あらんことを願ってるよ」


はぁ・・・・・・とポールは道すがらため息をついた。
うっかり買う羽目になってしまった花束をどうしようか、考えるのはそればかりだ。
たしかに女性に贈ることができるのであればそれが一番なのだろうが、そういったことにまるで縁のないポールにとってそれは海峡を泳いで大陸へ渡るよりも困難なことに思えるのだった。
きっとポールの友人だったらば気の利いた台詞を紡ぎながらいともあっさりとこなしてしまうのだろう。
そもそもポールには花を贈るような心当たりがまずいなかった。
妖精博士のリディアに事情を話して・・・・。
いやいやとポールは即座にかぶりを振る。
そんなことがあの伯爵にばれてしまった暁には自分は一体どんな目にあうやらだ。どうもことリディアのことになるとエドガーは簡単に態度を豹変させるから恐ろしい。
同じような思考をさきほどからぐるぐるとめぐらせているものの一向に妙案も浮かばないまま景色だけが移り変わっていく。そろそろ賑やかな市場も終わりに近づいていく。
どうしようと思いポールはそのまま公園のほうへと足を伸ばしていった。
こんなものを持って目的地まで行くことも出来ないし、どうすればいいのだろう。
けれども花に罪はない。だから捨てるなんて真似もできそうになかったし、あの少女に言われた言葉が頭から離れない。
ポール自身春という季節に宛てられてしまったかのような錯覚に陥っていた。
だから目の前に迫っている危険を感じられず突然振って湧いた衝撃に対処ができずそのまま後ろに倒れこんでしまった。
「あぁぁっと悪ぃ。急いでもんで」
一瞬の出来事で何が起こったのかわからなかったポールだが声が頭の上から聞こえているのだから自分はいましりもちをついているのかなということがかろうじてわかった。
「ほらつかまんな」
そういってポールに激突した声の持ち主はポールの腕を掴むと勢い良く引っ張りあげた。
衝撃から立ち直り相手を改めて見やるとそれは思いもかけない相手だった。
「あぁ、あんた一回あったことあるな、何だっけ?名前」
屈託なく笑う少女の名前は確かロタ。
プリンスの関わる事件で一度一緒に戦ったことがある少女だ。
「ポール」
「あぁそうだ、そんな名前だったっけ」
目の前の少女はあの時と同じで髪の毛を一つにまとめていた。
「悪かったな。ちょっと急いでたっつーか腹がたってたってゆーか」
「何かあったの?」
その一言にロタは表情を一転、憤慨した顔つきをした。
「リディアと一緒に散歩にきてたんだ。そしたらエドガーのヤツが姿を現しやがってリディアを誘拐していった」
だから追いかけようとしていたんだ、とロタは一人ごちた。
しかもヤツは馬車だったんだぞ、何様だとエドガーを罵り始めた。
「それは災難だったね」
「本当さ。リディアも絶対に考え直したほうがいいに決まってる。あんな狭量ヤロウ、結婚したら苦労するに決まってる」
たしかにエドガーのやきもち焼きは大げさなところがあるからなとポールはつい口元を緩めてしまった。
「なんだよ、なんか言いたいことでもあんの」
そんなポールの様子に気付いたロタが口元をとがらせる。
「いや、違うよ。君は本当にリディアさんと仲がいいんだなって」
「まあね。リディアはこんな私とでも仲良くしてくれるし、ロンドンで一番気を許せる友達なんだ」
何せ元海賊だしな、そういって少しだけ照れてみせるロタの瞳はとても優しかった。
「あぁーあ、リディアも連れ去られちゃって、どうすっかな」
ポールと会ったことで気がそがれたらしい彼女はそういってうーんと伸びをした。
このまま伯爵邸へ乗り込んでいくのもいいけどな、とかなんとかロタは一人ぶつぶつと唱えている。
「だ、だったら・・・・・」
「ん?」
「だったら僕と一緒に行かないかな?ちょうど僕も伯爵の家に用事があったし」
勢いに任せてとんでもない事を口走らなかったか、とポールが濁流のような後悔に飲み込まれていようともそれはすでに後の祭りだった。
なにしろ一度口からでた言葉は取り消せない。
こんな、自分から女性を誘うなんてどうしてしまったのだろうか。
やはり今日の自分は春の陽気に当てられすぎたらしい。
「いいよ、別に」
ポールの心中なんかまったく察しないロタの返事はとてもアッサリしていてポールはいささか拍子抜けしてしまった。
「一人で行くよりかは話し相手がいたほうがいいしな」
「はは・・・・、そうだね・・・」
「そういえば、あんた何持ってるんだ?」
ロタの目線の先には少しだけくたびれてしまった花束があった。
先ほどの衝撃でもそこまで損傷はなく日の光をあますことなく浴びようと真っ直ぐに上を向く花束。
「ああこれは・・・・その・・・・・」
ポールは行きすがらの出来事をロタに話して聞かせた。
勿論、件の少女との会話の内容も馬鹿正直にだ。
「ふーん、あんた体よくカモられたな」
聞いたロタの感想はまた辛辣なものだったがあっけらかんと言われてしまったのでポールもそうだねと笑うしかなかった。
笑ったら、少しだけ気分が晴れて、今この状況を楽しめるかのような余裕のようなものが生まれてきたから不思議だった。
きっとロタの飾り気のない言動によるものが大きいのだろう。
普通の、といったらロタには失礼だろうが、淑女と違ってあまり気を使う必要がないからかもしれなかった。ありのままでいるロタをみていると自然心に何かが灯ったように感じてしまう自分がいた。
「もしよかったら・・・・、貰ってくれるかな?これ」
ポールは握っていた花束をロタのほうへと差し出す。
対するロタはふいに差し出された花束にきょとんとしている。
彼女自身こういったものを差し出される経験が皆無に等しかったので言葉もなかったのだ。
彼女の周りには花束よりも銃器や酒などといったものを渡す者の方が多かったからだ。
ようやく我に返ったロタはぷっと吹き出す。
「そういう話をしたあとに出すもんじゃないよな」
ふふっと声を立てる少女にポールは慌ててその手を引っ込めようとする。
「ええっと、そうだよね。なんだかそれじゃ君に対して失礼だよね。ごめん」
「何あやまってんだよ。いいよ、貰っとくよ。花に罪はないもんな」
最後は少し強引にポールから花束を奪い取ったロタはまだ笑いが収まらないのかしばらく噴出していた。
けれどもそれは、屈託がなくってロタらしい愛嬌のある顔でポールはしばらくこのまま彼女の顔を眺めていたななどと考えていた。



★ ★☆☆★ ☆あとがき★ ★☆☆★ ☆
ちょっとながくなっちゃいました。
ポール×ロタです。
この二人もお似合いだよななんて密かに思ってます。
なのでこんなネタです。
一応ロンドン橋~のあとあたりです。
どうも私は季節ネタが大好きみたいです。
一番考えやすいからかな。
タイトルは伯爵と妖精にひっかけて。
元海賊なんだろうけどそれじゃ語呂が悪いので。まぁフリゲート乗り回してるし、いいでしょとかなんとか・・・言い訳してみたり。
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テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

タグ : 伯爵と妖精 二次小説

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