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2015.11.15 21:07

晩餐会での妻いじりから一夜明けて昼過ぎ。
どうも妻の様子がつれない。
しかも妻、シレイネことフェルに近しい侍女らのクロウに対する態度や視線も妙に冷たい。
まがりなりにも彼女らの主人でもあるわけで、あからさまな態度にこそ出さないものの背中に突き刺さる視線が冷気をはらんでいる気がするのだ。
おそらく気のせいではないと思う。
昼食時も珍しく時間が空いていたのでフェルに同席を打診してみたのだが帰ってきた答えは顔も見たくありませんとの一言だった。
またいつもの離婚しろ発言の延長かと思いあまり取りあわずに強制参加させてみたのだが、クロウが目にしたのはあからさまに顔をゆがめて敵意むき出しのフェルだった。
こちらが明るく話しかけているのにぷいと横を向いて無視をする、そのまま沈黙を決め込んでちゃんと噛んでいるのかと確認したくなるほどの早食いを披露して優雅にお辞儀をして食堂から去って行った。
眉間をひくひくさせながら「ごきげんよう」とだけ言い残して。
いつもならもっとこちらに噛みついてくるのに今回のは新しいパターンであった。
クロウは回廊を歩きながら小さく嘆息した。
あんな嫌がらせいつものことではないか。なにがそう彼女の琴線に触れたのだろう。
まったく分からないのが気持ち悪い。
嫌がらせというか意地悪をされて気持ちいい女性などいないという概念はこの場合クロウの頭からは抜け落ちている。
それくらいクロウにとってシレイネに扮したフェルをいじりたおすというのは当たり前のことになっているのだ。
が、それも彼女のくるくると良く回る表情やこちらをキッと睨みつけてくる根性の入った反応があってこそである。
こんなふうに無視されるのは面白くない。
これではまるでこちらがただのいじめっ子ではにか。
とりあえずちょっと突いてみるか、とクロウは城の奥まった部分を目指した。




召使い姿のフェルの姿を発見したのは城の大広間でだった。
最初に当たりをつけた薬草園は空ぶりで、いくつかほかにも候補になりそうな場所を探してみてやっとお目当てを探し当てた。
クロウの方には気付きもせずに一心不乱にきゅっきゅと床を磨いている。
水の入った桶を脇に置いてひざまづいてなにかぶつぶつと唱えながら床を磨くフェルは鬼気迫るものがあった。
一瞬声をかけるかどうか迷ったが、結局クロウは後ろから呼びかけることにした。
「精が出るな」
「…」
手を休める気配はなかった。
まさかこっちの姿の時にでも無視を決め込むつもりか。
だとしたら相当だな。
少しだけあっけにとられたが、そもそもフェル自身奥方様と目の前の召使い姿のフェルディアが同一人物だとクロウが知っているという事実をしらない。
ということはここで雇い主であるクロウの言葉を無視することが不敬に当たると理解しているはずである。
「フェルディア」
今度は少し大きな声で呼びかけた。
「はいっ…ってうわぁぁぁ!出た!」
顔をあげたフェルは呼びかけた相手を認識するなりそれが女性の出す声かというような素っ頓狂な声を出して盛大に驚いてみせた。
雑巾を持ったまま後ずさりをする始末だ。
「おいこら。人を見るなりなんなんだその反応は」
さすがにちょっと傷つく。
「うわっ…、すみません。ちょっと考え事をしていて汚れ取りに熱中していたものですから、その…。まさか殿下だとは露にも思わず」
「そうだな。一度目に声をかけた時は華麗に無視をされた」
「ぎゃぁぁぁっ!申し訳ございませんっ」
「いや、そんなに大げさに謝らなくてもよい。別に故意に無視をしたわけではないんだろう」
「え…まぁ…」
歯切れが悪くフェルが答えた。
とりあえずこちらの姿のフェルがクロウの問いかけにちゃんと答えてくれてよかった。
シレイネとフェルは別人なのだから城の主人としては主の問いかけを無視するような態度を取る使用人にはそれなりの注意や罰を施さなければならない。
「ずいぶんと熱心に磨いていたな。そんなにも汚れていたのか」
「え、まあ。汚れ自体はそんなでもないですけど、腹立つことがあったのでその怒りを汚れにぶちまけていました。なので殿下の言葉への反応が遅れてしまったんです」
恐縮しながらフェルは回答した。
「腹が立つことでもあったのか」
心当たりがなきにしもあらずだったがしれっとクロウは質問した。
「そうなんですよ!前に話した別口の仕事でなんですけどね!これがまた史上最強にむかつくことをやらかしてくれまして!」
途端にフェルの方も火がついたのか思い出したのか一気にまくし立ててきた。
「なんと、その仕事相手と食事をする羽目になったんですけどあろうことか最後のデザートを私の目の前で横取りしたんですよ」
「…そうか」
「横取りですよ!美味しそうな杏のケーキだったのに!!どこから食べようかなぁってうきうきしながら考えていたら、食べないなら俺がもらうとかわけわかんないこと言いやがってぱくりと食べやがったんですあいつ!」
「…」
「あーっもうっ!信じられない。マジ腹立つ、ばかー」
フェルの怒りはすさまじかった。
一気にまくし立てて酸欠になったのかぜえぜえと肩を揺らしている。
それでもまだ収まりきらないのか手に持っていた雑巾をきりきりと胸の前で締め上げている。
「ほんっと腹立つ!ケーキが!わたしのケーキが魔の手に。悪魔の手の内に」
まさかそれほどの地雷を踏んでいたとは知らず、クロウは押し黙るしかなかった。
思い切り根に持たれている。
それもすさまじいくらいに。
「そんなわけでこの怒りを発散するべく前からちょっと目をつけていた大広間のシミにぶつけてやろうとこうして職務に励んでいたんです。で、頭の中で悪口を言いまくっていたので殿下の言葉にすぐに反応できなかったんですね。申し訳ありませんでした」
本人目の前にして脳内悪口大会とか言うかこいつ、とか悪態をつくくらいは許されるべきだろう。
「…えーと殿下?」
さすがにいたたまれなくなったのかフェルの方からお伺いを立ててきた。
「い、いや。すさまじい怒りと執念だなって思って」
「食べ物の恨みは末代までです」
フェルはきっぱり言い切った。
「末代…それはずいぶんと長いな」
「当り前です!そりゃあ殿下は食いっぱぐれたことなんてないでしょうからそんな悠長なことが言えるんですよ。それに甘いものなんて別口じゃないですか。普段からそんなに口にできるものじゃないし。本当にうれしかったんですから」
本物のシレイネの身代わりとして嫁いできたフェルは孤児院出身だと言っていた。
食べるものも満足に手に入れることができない、ぎりぎりの生活をしていたはずなのに。
自分はそういった彼女の背後を聞いていたのに戯れとはいえフェルを傷つけていたのだ。
今日彼女が自分に向けてきた感情の意味がすとんと心の中に落ちてきてクロウは昨日の行いを後悔した。
クロウはフェルの頭にぽんと手を置いた。
「で、殿下?」
驚いてこちらを見上げてくるフェルの頭をくしゃくしゃと撫でまわす。
「どうしたんですか?いきなり」
「いや別に。なんとなくだ」
「なんとなくって」
「フェルもあんまり怒りをため込むな。きっと仕事相手も今頃食べすぎて腹壊しているかもしれないだろう」
「そうでしょうか。元気満点だと思いますけど…」
「ま、まあ…その。あれだ。あまり根を詰めるな。こんど俺が丹精込めて育てた花を練りこんだ焼き菓子でも差し入れしてやるから」
「え、それって毒花ですよね?絶対」
「うまいぞ?」
「そんな感想もつの殿下だけですからっ!さすがの私でもお腹壊します」
そう言って噴き出すのでクロウも口の端を持ち上げた。
やっと笑ったフェルを目にしたら自然に頬も緩んでしまう。
彼女はこうやってくるくると表情をかえている方が似合うし、相手にしていて楽しい。
「遠慮するな。だったら今度ほかのやつらにも特別給付ということでふるまおうじゃないか」
「そんなものふるまったら確実に翌日全員寝床から起き上がれませんからっ」
そう言って突っ込んでくるフェルを適当にいなしてクロウは彼女と別れた。


翌日もフェルは召使い姿に扮装して掃除に精を出していた。
やっぱり行き場のない怒りを発散させるにはこの方法が一番だ。
昨日はなぜだかクロウが乱入してきて面食らったけれど、いまのところ今日ははかどっている。
というか熱心に磨いているところで声をかけてくるものだから本当に心臓が止まるかと思った。
しかもクロウのことを脳内でさんざんののしっていた最中だったから余計にだ。
まあでも昨日本人目の前に愚痴ることができたらすっきりすることはできた。
あれがいつもの旦那様の嫌がらせなのだからしょうがない。
しょうがないけれど食べ物の恨みはやっぱり別だ。
楽しみにしていたのを目の前でかっさられたのだ。
甘くておいしい幸せのひと時を眼前で奪われた。
お腹だってすっかりケーキ仕様になっていたのに。
ああ最悪。思い出したらやっぱり怒りがふつふつとわきあがってきてフェルはガラスを磨く布巾に力を込めた。
やっぱりしばらくはこの怒りは収まりそうもなかった。
フェルディア姿の時は一応は雇用されている側なのでしょうがなく口をきいたけれどシレイネ姿の時は今日もだんまりをきめこんだままだった。
悪いのは分かっているけれどどうにも怒りがおさまらない。
一応気を使った料理人が昨日の晩にデザートを用意してくれたけれどそれとこれとは別なのだ。
(まあでもさすがにこれ以上は無理かな。奥様だもんね、ちゃんとしなくちゃ)
理性の部分では分かっているのでガラス磨きでうっぷんを晴らして今日の夜からは挨拶くらいはしようと心に誓う。
そうして再びガラスを相手にしようと意気込んだところでこんこんと背中をやわらかく叩かれた。
振り返るとそこにはクロウが立っていた。
「で、殿下」
なぜだか昨日からクロウにやたらと会う。城の主がこうも簡単に使用人に構うなんて普通あるんだろうか。
「今日はどうしたんですか」
フェルは小首をかしげた。
「ちょっと今時間あるか?」
「…ええ、まあ」
「よし、ちょっとつきあえ」
そう言ってクロウは踵を返してとある方向を目指して歩いていく。
展開についていけずにぼさっとしたフェルも慌てて後に従った。
どうせ嫌といっても上司命令だとかなんとか言って連れて行くのだろうから最初っから従っていたほうがましだ。
どこに行くんだろうか、訝しげに思うもクロウの考えがフェルに分かるはずもなくただ背中を見つめるだけだ。
そうしてクロウの背中を追ってやってきたのはいつもの毒草園。
「ほら座れ」
そう言ってクロウはフェルをベンチに座らせた。
いまいち意味がわからない。
フェルはおずおずとクロウを見上げた。
「ほら」
と、唐突にフェルの前に籠が突き付けられた。
「えーと…。殿下これは一体?」
フェルはひとまず籠を受け取ってひざ上に乗せた。
何が入っているのだろう。開けたいような開けたくないような。
「開けてみろ」
「はい…」
開けろと言われたら開けるしかない。
蓋つきの籠を開けてみると…
「わぁ…可愛い」
姿を現したのはいくつかの種類のケーキと焼き菓子に干したイチジクを使ったタルトなどのお菓子だった。
切り分けられたケーキが何種類も籠の中に盛られていて。
何種類ものお菓子に目移りしてしまう。
「えーと…これは一体」
「ほら昨日言っていただろ。食べ物の恨みは末代までだと」
「ええまあ言いましたけど」
しかも本人目の前にして。そしてその本人がお菓子を持参した。
なんなんだこの状況。
「これでも食べて機嫌直せ」
「え?」
「あんまり怒りをため込んでいると体にも良くないだろう。とりあえずお前の別口の仕事相手のことは置いておいて、やつの代わりに俺が代わりを用意したから。これ食べて機嫌直せ」
「はあ…。ってもしかしてこれ全部毒入り?」
仕事相手って、まんま全部あなたですけどねという突っ込みは頭の中だけにとどめておく。
妻シレイネにはあんなにも冷たいのに。
どうして召使いフェルディアにはこんなにも優しんだろう。
一使用人の愚痴なんてそのまま忘れてしまえばいいのに。
召使いの為にわざわざお菓子を届けてくれるなんて…、もしかして全部毒入りなんじゃないだろうか。
「え…、そっちのほうがよかったのか」
「いやいや、確実に翌日寝込みます」
そこは即座に突っ込んでおく。
「ほら、いいから食べろ。大丈夫だ、ここのものは一切使っていないから」
熱心に進めるクロウにしたがってフェルは籠の中からつまみやすいフィナンシェを手に取って口に運んだ。
ちなみにフィナンシェの生地に小さく砕いたピスタチオが練りこんである。
口の中に入れるとほろりとした甘みが広がっていく。
「美味しい」
フェルはほうっとため息をついた。
隣に座ったクロウはそんなフェルの表情を覗きこんで相好をくずした。
だからどうしてそんな顔をするのだろう。シレイネには見せない表情を簡単に見せられるとこちらも対応に困ってしまう。
「よかった」
そういって覗きこまれると心臓がきゅっとなってこちらも固まってしまう。
どきどきしてしまってお菓子の味どころじゃなくなってしまうのだ。
心臓に悪いったら。
そうしてひとしきりクロウの勧めに従ってお菓子を堪能したフェルはクロウから解放された。
籠の中にはまだまだお菓子が残っていたけれどさすがに食べきれないので後でラナへの差し入れにしよう。
そういえば今回の顛末を聞いたラナもシレイネと一緒に怒ってくれた。
同じ女性として甘いものの恨みは共感できるとのことだった。
それにしても。
やっぱり旦那様の不意打ちの優しさを知ってしまうとあまり邪険にもできなくて。
こんな風にフェルディア姿の時に気遣われてしまうと憎むことも難しくなってしまうのだ。
一つ一つクロウの素顔を知っていくのが怖い気もして。
けれどクロウに近付けた歓びがあるのも本当のところで。
ぐるぐると回る思考についていけなくなって声にならない絶叫を上げてしまうのだ。


あとがき☆★
仮花嫁シリーズの二次小説第2弾
前回の夫婦の食卓の後日談です

新刊も絶好調!がっつり読みました
とりあえずよかったよ旦那様無事で
このシリーズは二次で書かなくても公式様がすばらしい萌えをくれるので幸せです
ドSヒーローが妻を言い含めていちゃラブしようとするくだりが大好きすぎます
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